海外商標とは?出願のタイミング・費用・期間を専門家が解説
海外で商品やサービスを展開するとき、「日本で商標登録していれば海外でも守られる?」「海外進出が決まってから出願すればいい?」「費用はどのくらいかかる?」など、海外商標について疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
商標権は、原則として国・地域ごとに発生する権利です。日本で商標登録をしていても、その権利がそのまま海外で認められるわけではありません。
さらに、国によって商標制度や手続き、登録までにかかる期間も異なります。海外展開が具体化してから調べ始めた結果、「すでに第三者に商標を取られていた」というケースもあります。
そこで今回は、海外商標を初めて検討する企業の担当者に向けて、海外商標の基本から、出願のタイミング、費用、登録までの期間、更新まで、YKI国際特許事務所の海外案件担当者に聞きました。
この記事でわかること
海外商標の基本
- Q1.海外商標とは、そもそも何ですか?
- Q2.日本で商標登録していれば、海外でも守られますか?
- Q3.海外でビジネスをするなら、海外商標は必要ですか?
- Q4.海外展開がまだ決まっていなくても出願できますか?
- Q5.個人でも海外商標を出願できますか?
- Q6.出願前に、現地で商標調査をした方がよいですか?
出願のタイミング・費用・期間
- Q7.海外商標は、いつ出願するのがよいですか?
- Q8.海外商標の出願費用は、何によって変わりますか?
- Q9.出願する国が増えるほど費用は高くなりますか?
- Q10.出願から登録までにかかる期間はどのくらいですか?
- Q11.登録後も更新費用はかかりますか?
海外商標の基本
Q1.海外商標とは、そもそも何ですか?
「海外商標」という明確な法律上の定義はありませんが、商標権は原則として国・地域ごとに発生しますので、一般的には、日本以外の国・地域における商標を意味します。
海外商標も、基本的には日本の商標と同じく、商品名やサービス名、ブランド名、ロゴなどについて、その国・地域において、保護を求めることができます。重要なのは、商標権は原則として登録された国・地域でのみ効力を有するという点です。
たとえば、日本で商標登録を受けていても、その権利がそのままアメリカや中国などで有効になるわけではありません。海外でもブランド名などを商標として保護したい場合は、基本的に保護を受けたい国・地域で手続きを行う必要があります。
Q2.日本で商標登録していれば、海外でも守られますか?
いいえ。原則として、日本で取得した商標権の効力は日本国内に限られます。
海外でも商標を保護したい場合には、その国・地域で別途権利を取得する必要があります。これはブランド名などの文字商標だけでなく、ロゴについても同様です。注意したいのは、「日本で自分たちが問題なく使えている名称だから、海外でも使える」とは限らないことです。海外では、同じ名称や似ている商標を第三者がすでに登録している可能性があります。
そのことを知らずに商品やサービスを展開すると、自社が第三者の商標権を侵害してしまい、使用の中止を求められたり、トラブルにつながったりする可能性もあります。
Q3.海外でビジネスをするなら、海外商標は必要ですか?
商標登録をしていなければ、その国で一切ビジネスができないというわけではありません。ただし、海外で商品やサービスを展開するのであれば、商標の取得を検討することをおすすめします。
理由の一つは、第三者に先に権利を取得されるリスクがあるためです。たとえば、自社が使用しているブランド名を第三者が先に商標登録すると、その国でこれまでの名称を使い続けることが難しくなる可能性があります。
もう一つが、知らないうちに第三者の商標権を侵害してしまうリスクです。日本では自社で考えた名称を問題なく使用していたとしても、海外では同一・類似する商標を別の権利者が登録している場合があります。
海外展開では、自社の商標を守ることと同時に、他者の権利を侵害しないという観点も重要です。
Q4.海外展開がまだ決まっていなくても出願できますか?
これは国によって異なります。
日本では、実際の使用開始前でも商標を出願・登録できます。一方、アメリカのように、商標を実際に使用しているかどうかが権利化に大きく関係する国もあります。また、多くの国では、登録した後に一定期間商標を使用していない場合、第三者から不使用に基づく商標登録の取消しを求められる可能性があります。
そのため、「いつか進出するかもしれない」というだけで、あらゆる国に早く出願すればよいというわけではありません。進出の可能性や時期、事業計画などを踏まえながら、出願する国とタイミングを検討することが重要です。
Q5.個人でも海外商標を出願できますか?
はい。個人でも出願できます。海外商標は法人でなければ取得できないものではなく、個人名義で出願することも可能です。実際に、企業だけでなく、個人事業主やデザイナーなどが個人名義で商標を取得するケースもあります。
個人か法人かということ自体によって、商標登録の可否が決まるわけではありません。
Q6.出願前に、現地で商標調査をした方がよいですか?
できれば出願前に先行商標を調査することをおすすめします。
調査をせずに海外で商品やサービスを展開すると、知らないうちに第三者の商標権を侵害してしまう可能性があります。また、ブランド名やロゴ、商品パッケージ、Webサイトなどを準備した後になって、「この名称では登録が難しい」「すでに似た商標が登録されている」と分かると、変更のためにさらに時間とコストが必要になります。
一方で、調査そのものにも費用と時間がかかります。そのため、どの国について、どの程度まで調査するのかは、事業の重要度や予算、スケジュールなどを踏まえて検討します。
海外商標を出願するタイミング・費用・期間
Q7.海外商標は、いつ出願するのがよいですか?
海外展開が正式に決定してからではなく、海外展開を検討し始めた段階で相談することをおすすめします。
多くの国では、原則として先に出願した人が優先される「先願主義」が採用されています。
特に会社名やハウスマーク*、主力商品のブランド名など、後から変更することが難しい重要な商標については、早めに出願することが重要です。こうした重要な商標は、「1日でも早く」という意識を持っておいた方がよいでしょう。
実際に海外進出を決めてから商標について調べ始めると、その時点ですでに第三者が同一・類似する商標を出願・登録していることもあります。ただし、登録後に長期間使用していないことが問題となる国もあります。早く出願するメリットと、不使用によるリスクの両方を考えながら、事業計画に合わせてタイミングを決めることが重要です。
*ハウスマーク(コーポレートマーク)とは、企業名や社章、会社のロゴなど、会社全体や組織の出所(提供元)を示すシンボルマークのことです。商品のパッケージや会社の看板、ホームページなどに使われ、企業の信頼や責任の所在を表します。
Q8.海外商標の出願費用は、何によって変わりますか?
海外商標の費用は、主に次のような要素によって変わります。
・出願する国・地域
・出願する区分数
・対象となる商品・サービスの範囲
・各国で必要となる書類や手続き
・現地代理人への依頼内容
特に国による違いは大きく、必要書類が多かったり、委任状などについて認証手続きが必要だったりする国では、その分費用が高くなる場合があります。そのため、「海外商標なら一律○万円」と考えることは難しく、どの国で、どの商品・サービスについて権利を取得したいのかを整理したうえで見積もることになります。
Q9.出願する国が増えるほど費用は高くなりますか?
基本的には高くなります。
国ごとに特許庁等へ支払う費用や、現地代理人費用などが発生するためです。また、同じ地域であっても、国によって費用や必要な手続きは異なります。たとえば中東の一部の国では、認証などの手続きが必要となり、必要書類も多いため、比較的費用が高くなるケースがあります。
予算が限られている場合には、すべての国へ一度に出願するのではなく、
・実際に販売する国
・製造する国
・近い将来進出する可能性が高い国
・事業上特に重要な市場
などを整理し、優先順位をつけることが重要です。「予算内でどこまで守るか」という観点から出願戦略を考えることも、海外商標では必要になります。
Q10.出願から登録までにかかる期間はどのくらいですか?
国によって大きく異なります。
半年程度で進むケースもあれば、1〜2年程度かかるケースもあります。国や案件によっては、それ以上の長い期間を要することもあります。また、審査の途中で拒絶理由が通知され、それに対応する必要が生じれば、登録までの期間はさらに長くなります。国によっては早期審査の制度が設けられている場合もあります。
ただし、利用するための要件が定められていたり、現地代理人への追加手数料などが必要になったりする場合もあるため、すべての案件で利用できるとは限りません。
「海外展開を始める直前に出願すれば間に合う」とは限らないため、事業スケジュールから逆算して準備することが大切です。
Q11.登録後も更新費用はかかりますか?
はい。商標権を維持するためには更新手続きが必要です。
多くの国では10年ごとの更新が一般的ですが、具体的な期間や手続きは国・地域によって異なります。特に注意したいのが、更新期限の管理です。
必ずしも各国の特許庁等から「もうすぐ更新期限です」と通知されるとは限らないため、原則として権利者側で管理しておく必要があります。国によっては、期限を過ぎても一定期間であれば追加費用を支払うことで更新できる場合もあります。しかし、その期間も過ぎれば権利が消滅してしまう可能性があります。企業内での管理に加え、依頼している特許事務所などとも連携し、複数の方法で更新期限を管理しておくと安心です。
海外商標は「登録されたら終わり」ではなく、その後の管理まで含めて考えることが重要です。
まとめ|海外展開を考え始めたら、商標も早めに検討を
海外商標でまず押さえておきたいのは、日本で商標を取得していても、その権利がそのまま海外で認められるわけではないということです。
海外では国・地域ごとに制度が異なり、出願費用や登録までの期間、登録後に必要な手続きもそれぞれ異なります。
そして、商標は海外進出が決まってから考えればよいものとも限りません。
海外展開が具体化してから調べた結果、すでに第三者に商標を取得されていた場合には、ブランド名の変更や相手方との交渉などが必要になる可能性があります。特に会社名やハウスマーク、主力ブランドなど、簡単には変更できない名称については、海外展開を検討し始めた段階で一度商標について確認しておくと安心です。
YKIでは、進出国が完全に決まる前の「この国で展開するかもしれない」という段階から、海外商標についてご相談いただけます。
相談時には、次のような情報があるとスムーズです。
・登録を検討しているブランド名、商品名、会社名、ロゴなど
・対象となる商品・サービス
・進出を検討している国・地域
・海外展開のスケジュール
・事業内容が分かる資料
すべてが確定している必要はありません。
海外展開を考え始めた段階から、事業計画と並行して商標についても検討しておくことが、海外でブランドを守る第一歩です。
※商標制度や必要な手続きは国・地域、案件によって異なります。具体的な出願については、個別にご相談ください。
取材・構成:西田 ひとみ
