海外商標はいつ相談すべき?(前編)
海外案件担当者に聞く、ブランドを守る最適なタイミング
「海外商標は、いつ相談すればいいのでしょうか。」
海外案件担当者によると、この質問は最も多く寄せられる相談の一つです。
「海外進出が決まってからでいいですか?」「まだ販売する国も決まっていないのですが、相談できますか?」「海外商標はどの国に出願すればよいのでしょうか?」
海外展開を考え始めた企業の多くが、同じような疑問を抱えています。
海外商標というと、「海外で商品を販売する直前に考えるもの」というイメージを持たれる方も少なくありません。しかし実際には、その少し前から相談を始めることで、よりスムーズに海外展開を進められるケースが多くあります。
今回は、YKI国際特許事務所で海外案件を担当する葦原さん、浅見さん、関原さん、吉田さんに、海外商標を検討するタイミングや実際によくあるご相談、海外案件をサポートする上で大切にしていることについて話を聞きました。




左から 葦原 エミさん 浅見 祥子さん 関原 亜希子さん 吉田 麻実子さん
海外商標は「海外展開を考え始めたら」すぐ相談するのがおすすめです
──海外商標について、一番多いご相談は何でしょうか。
「実は、一番多いのは『海外商標は、いつ相談すればいいですか?』というご質問なんです。『商品が完成してから』『海外で販売することが決まってから』と思われる方も多いのですが、私たちは海外展開を考え始めたタイミングでご相談いただくことをおすすめしています。」
海外商標について検討すべきことは、単に出願手続きを進めることだけではありません。どの国・地域へ展開する予定なのか、ブランドをどのように育てていきたいのか。その事業計画に合わせて、商標をどのように守っていくべきかを、全体的な視点から検討することが大切です。
例えば、次のようなタイミングは、一度相談を検討する目安になります。
- 海外展示会への出展が決まった
- 越境ECを始める予定がある
- 海外代理店との商談が始まった
- 現地法人の設立を検討している
- 海外向けブランドを立ち上げる

海外では、もちろん日本と同じように商標制度が整備されている国もありますが、運用や制度は国によって異なります。また、多くの国では「先に出願した人」が権利を取得する先願主義が採用されているため、ブランド名が決まってから慌てて準備を始めるよりも、一歩早く動くことで選択肢が広がるケースも少なくありません。
もちろん、「海外展開を考え始めたら、すぐに出願しなければならない」というわけではありません。大切なのは、早い段階で相談し、自社にとって最適なタイミングや進め方を整理しておくことです。
──「まだ早いかもしれない」と感じる段階でも、ご相談は多いのでしょうか。
「はい、とても多いですね。私たちは、最初から『どの国へ出願しますか』というお話をするわけではありません。まずは、『どのような事業を考えているのか』『これからどんなブランドに育てていきたいのか』を伺うことを大切にしています。海外展開は企業によって進め方がまったく違います。だからこそ、事業のお話を伺いながら、一緒に優先順位を整理していくイメージですね。」
POINT
海外商標は、「出願すること」から考えるものではありません。
まずは事業の方向性を整理し、その上でいつ・どの国で・どの方法でブランドを守るかを考えることが、将来の海外展開をスムーズに進める第一歩になります。
「まだ何も決まっていない」からこそ相談する価値があります
「販売する国も決まっていないのですが、相談できますか?」
担当者は、「このご質問も本当によくいただきます」と笑顔で話します。
私たちは最初から『どの国へ出願しますか』というお話はしません。まずは、『どのような事業を考えているのか』『海外でどんな展開を目指しているのか』を伺うことを大切にしています。」
海外展開では、最初からすべての計画が決まっている企業ばかりではありません。
まずは海外展示会へ出展してみたい、越境ECを始めたい、海外代理店との商談を進めている――企業によってスタート地点はさまざまです。
だからこそ、海外商標も「どの国へ出願するか」だけではなく、事業計画に合わせて考えることが大切になります。
「事業の方向性が見えてくると、自然と優先して商標を取得すべき国も見えてきます。私たちは、お客様と一緒に優先順位を整理するところからお手伝いしています。」
例えば、
- まずはアジア市場から展開したい
- 将来的には欧米への進出も視野に入れている
- ブランドを長く育てていきたい
- 商品ラインアップを増やす予定がある
同じ「海外展開」でも、企業ごとに状況は異なります。
POINT
「まだ何も決まっていない」段階だからこそ、事業の方向性を整理しながら、必要な国やタイミングを一緒に考えることができます
個別出願とマドプロ、どちらを選ぶ?
海外商標には、各国へ個別に出願する方法と、マドリッド協定議定書に基づく国際登録制度(マドプロ※)を利用する方法があります。
「マドプロは、複数の国・地域へ出願する場合に便利な制度です。更新や名義変更などをまとめて管理できるというメリットもあります。一方で、すべての企業に最適というわけではありません。事業計画や出願する国によって、個別出願の方が適していることもあります。」
大切なのは、制度だけを見て判断するのではなく、今後の事業展開まで見据えて、自社に合った出願方法を選ぶことです。
※マドプロ(マドリッド協定議定書に基づく国際登録制度)は、国際事務局へ一つの手続きをすることで、複数の国・地域を指定して商標の国際登録を求めることができる制度です。手続きや権利管理の負担軽減につながる場合があります。
海外商標の出願までの流れ
「海外商標は難しそう」と感じる方も少なくありません。実際には、最初から専門的な手続きを進めるのではなく、お客様の事業内容や海外展開の予定を整理するところから始まります。
「まずは事業のお話を伺い、どの国への展開を考えているのか、ブランドをどのように育てていきたいのかを確認します。その内容を踏まえて、商標調査や出願方法をご提案しています。」

一般的には、
- ヒアリング
- 商標調査
- 出願方法の検討(個別出願/マドプロ)
- 各国での審査
- 登録・権利化
という流れで進みます。
どの出願方法を選ぶかは、対象となる国や事業計画によって異なります。各国へ直接出願する「個別出願」のほか、複数の国・地域への出願手続きをまとめて行える「マドプロ」を利用する方法もあります。
「マドプロを利用する場合も、指定した各国・地域でそれぞれ審査が行われます。審査の過程で拒絶理由が通知されるなど対応が必要になった場合には、現地代理人と連携して手続きを進めることになります。」
「国によって必要な書類や審査期間、手続きの進め方は異なります。比較的早く登録される国もあれば、1年以上、場合によっては2〜3年ほどかかる国もあります。」
また、海外案件では現地代理人との連携も欠かせません。
「各国で休日や商習慣も異なり、また、法改正も頻繁にあるため、普段から現地代理人と密に情報共有を行いながら進めています。海外案件は、一人ではできません。現地代理人との信頼関係があるからこそ、お客様にも安心してご提案できるのだと思っています。」
海外商標は、制度だけを知っていれば進められるものではありません。各国の制度や最新情報を把握し、現地代理人と連携しながら、お客様にとって最適な方法を考えていくことが重要です。
POINT
海外商標は、出願して終わりではありません。
海外展開のパートナーとして、お客様の事業計画に寄り添いながら、各国の制度や現地代理人とのネットワークを活かしてサポートすることが、YKI国際特許事務所が大切にしている海外案件の進め方です。
まとめ
海外商標は、「海外展開を考え始めた段階」で相談することが大切です。販売国や出願方法がまだ具体的に決まっていなくても、事業計画に合わせて進め方を整理し、最適な選択肢を一緒に考えることができます。早めに相談することで、出願国・方法・時期の選択肢が広がり、その後の海外展開をスムーズに進めやすくなります。
担当者から、海外展開を考える方へのメッセージです。
「海外商標は、早く相談したからといって必ず出願しなければならないものではありません。『まだ海外展開を考え始めたばかり』『販売する国も決まっていない』という段階でも大丈夫です。まずは事業のお話を伺いながら、一緒に最適な進め方を考えていきますので、海外展開の第一歩として、まずはお気軽にご相談ください。」
取材・構成:西田 ひとみ
