【商標】市松模様は商標権侵害?
―ルイ・ヴィトン「ダミエ」商標権の範囲に関する判定―
(判定2020-695001)
◆ 事案の概要
本件は、株式会社神戸珠数店(以下「本件請求人」)の商品「珠数入れ、経本入れ、御朱印帳入れ等の袋物」に使用される市松模様の標章(以下「イ号標章」)が、ルイ・ヴィトン・マルティエ(以下「ルイ・ヴィトン社」)の有する、いわゆる「ダミエ」柄の国際登録商標第952582号(以下「本件商標」)に係る商標権の効力の範囲に属するか否かについて、判定が求められた事案です。

(引用元:JPlatPat)
本件の発端は、本件請求人が珠数入れや御朱印帳入れなどの袋物に市松模様の織物を使用していたところ、ルイ・ヴィトン社が本件請求人の取引先に対し当該袋物の販売が商標権を侵害する旨の通報をし、当該取引先が販売停止に至ったことにあります。
その後、本件請求人は当該指摘の妥当性について確認を求め、当該取引先の販売停止を解除するため、特許庁に対し本件判定を請求したというわけです。
◆ 結論
特許庁は、イ号標章の使用は、ルイ・ヴィトン社の本件商標の商標権の効力の範囲に属しないと判断しました。
◆ 判断のポイント
① 市松模様は広く知られた日本古来の伝統的な模様
イ号標章は、日本古来の模様として広く一般に知られている「市松模様」(色の違う二種類の正方形または長方形を、互い違いに並べた模様)と同様の態様である、と認定されました。
② 自他商品の識別標識として機能していない
イ号標章は、珠数入れ等の袋物の全面に施された模様として用いられており、また、パンフレットの商品説明においても「市松模様」「市松柄」などと記載されていることから、需要者はこれを単なる布地の模様として認識するにとどまると判断されました。その結果、イ号標章は、自他商品の識別標識として機能する態様で使用されていないと認定されました。
③ 商標法26条1項6号の適用(類否判断に進まず)
特許庁は、イ号標章について、「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」に該当すると認定しました。 これは商標法第26条第1項第6号に該当するものであり、本件商標との類否や指定商品との比較を検討するまでもなく、商標権の効力は及ばないと判断されています。
◆まとめ
本件では、「商標としての使用」に該当するか否かが判断のポイントとなりました。一般に広く知られた伝統的な模様を、単なる布地のデザインとして使用するにとどまる場合には、商標権侵害とはならないことが示された点で、実務上有益な判断といえます。
また、本件のように著名ブランドから警告を受けた場合、まずは驚き、そのまま商標の使用を中止してしまうケースも少なくありません。しかしながら、重要なのは、当該警告の内容を冷静に理解し、その法的妥当性を検討することです。特許庁の判定制度により、こうした紛争について、中立かつ公平な立場からの専門的な判断を得られる点は、実務上大きな意義があります。
商標グループ 弁理士 吉田麻実子
