【商標ニュース】「DIORLV」は「DIOR」と類似する?
― 異議申立と無効審判で結論が分かれた事例 ―
(無効2022-890028)
◆ 概要
本件は、「Dior」や「DIOR」などの商標権を有するクリスチャン ディオール クチュール社が、登録商標「DIORLV」に対して無効審判を請求した事案です。特許庁は、両商標は類似すると判断し、最終的に当該登録を無効としました。
特筆すべきは、本件無効審判の前に提起された異議申立では、商標の類否について真逆の判断がなされ、登録が維持された経緯がある点です。
◆ 結論が分かれた理由
無効審判では、「DIOR」がファッション業界で著名な商標であることが認められました。登録商標「DIORLV」の指定商品もファッション関連商品であるため、需要者は「DIOR」の部分に注目する可能性が高いと判断され、「DIOR」の部分を要部として両商標は類似すると結論づけられました。
一方、先の異議申立では、「DIORLV」は同書同大等間隔でまとまりよく一体に表された不可分な造語であり、「DIOR」の部分を分離して比較する特段の理由はないと判断され、両商標は非類似であると結論づけられました。
◆ 制度上の違いも影響
日本の異議申立制度は当事者対立構造ではなく、登録後一定期間内に特許庁が公益的観点から登録の適否を見直す制度です。そのため、明確な誤りが認められない限りは、異議申立手続において登録が取り消されるケースは多くありません。実際、2023年における異議申立の認容率は10%未満でした。
本件は、異議申立が認められなかった場合でも、主張や証拠次第では無効審判で登録が無効となる可能性があることを示す好例といえるでしょう。
商標グループ 弁理士 吉田麻実子